本日、当宙域は戦闘状態につき 1

喧嘩するけどディが折れる。折れると見せつつ実はやり手。
したたかなディと絆されやすいイザの緑白ディアイザ

かねてからの不安定な情勢のなか、プラントでは軍事力がもたらす外交不安の解消や現状打開への期待の声とギルバート・デュランダル議長への信任が高まり、各宙域では緊張が高まっていた。
その中にあって、過酷な前哨を任ぜられていたジュール隊は特命によりプラント至近の宙域へと呼び戻されていた。

膠着した戦局で蟻すら近付けぬ気迫で任務に当たっていた無骨な部隊らしからぬ、半ばパフォーマンスじみた装備を与えられてジュール隊旗艦ボルテールはザフト合同の演習に参加していた。

突然の将軍――議長からの本国への呼び戻しへの当惑と、また、同じく前哨に当たっていた隊への心配とで、ジュール隊隊長であるイザークは大層苛立っていた。

「貴様、少しはそのヘラヘラした面を引き締められんのか?」

プラント近くの宙域に単艦で停止したボルテールのブリッジで、ひとり宙域図を睨みながらイザークは言い放った。

「ん? 何だよ藪から棒に」

居住区へ続くエレベーターの脇で、自身が率いるMS隊パイロットたちに向けてヒソヒソとジョークを飛ばしていたディアッカは、イザークの不機嫌な声をそれでも聞き逃しはしなかった。

「次から次へと下らん話ばかりしやがって――」

イザークは言うと、固く握った拳を宙域図のコンソールに勢いよく振り下ろした。

鈍い音がして、ブリッジがしんと静まり返り、計器の電子音だけがこだまする。

壮年の艦長は半ば諦めたような呆れ顔で小さく溜息を吐いた。

「怖えなぁ、八つ当たりすんなよぉ」

蛇に睨みつけられて動けなくなった鼠のような一般兵をディアッカがのんきな声を出して“解凍”すると、イザークは間髪入れずに軍靴の足で床を蹴った。
微重力のブリッジを慣性で突き抜け、その先のディアッカのシニカルな表情を見るや眉間に皺を寄せ、そして首根っこを掴んで至近距離で叫んだ。
この間、実に一秒であったと、ジュール隊パイロット達が噂したのはまた別の話である。

「この宙域は戦闘状態だってのを何度も言われんと分からんか!? 貴様らとっとと配置に――」

「ディアッカ」

艦長が嗜めるように声を掛けた。

「何で俺?」

ディアッカはクスクス笑いながら、「なぁ?」と、パイロット達に同意を求める。

「ヒートアップしてんなぁ。大丈夫だ、スクランブル要員はスタンバイしてる。お前さぁ、分かるだろ? 流石にそのくらい」

イザークはいつもこうだ、とディアッカは笑いながら思考していた。

「イライラしてんだなぁ。だけど仕方ないぜ? 敵さんが隠れて出てこない想定状況だ――ま、お前はそーいう状況がイチバン苦手だよな」

「作戦行動中だ! そしてここはCICだ――パイロットはハンガーで待機していろ!」

「俺たち、そんなに細かく分けられるほど人数いないだろーが。分かりきったこと言わせんな」

「――ッ」

「あー分かった。艦長、あとよろしく」

ディアッカはイザークの肩を抱いて、ひらりとエレベーターに連れ去った。

「はぁっ?!」

イザークは目を丸くして、ディアッカは緩い敬礼を作って唖然とするパイロット達にウインクとともに投げつけた。

閉じていくエレベーターのドアに向けて、艦長は背中を向けたまま手を振って応えた。

to be continued…

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