本日、当宙域は戦闘状態につき 2

喧嘩するけどディが折れる。折れると見せつつ実はやり手。
したたかなディと絆されやすいイザの緑白ディアイザ
つづき。

居住区に向かうエレベーターに半ば無理矢理乗せられたイザークは、居住区にたどり着いたことを知らせるベルが鳴るや緑色の一般兵用パイロットスーツに身を包んだディアッカの腕を振り払った。

それまでの数秒――大音声で抗議しながらも――大人しくしていたのは、イザークの想像より遥かにディアッカがイザークの身体を抑制する力が強かったからだ。
頭に血を上らせながらもイザークは、内心、その確実な制止に舌を巻いていた。
――アカデミーでは、俺はCQCでコイツに勝ってたはずなのに――。

「ちょっと話そうぜ。お前の部屋で」

「この状況で話すことなんぞ――」

「熱くなるなよ。耳、真っ赤」

「なッ――」

ディアッカがイザークの血色を帯びた右耳に、怒りで乱れきった銀髪を掛ける。
更に怒気を強めたイザークは、大きなガラス玉のような双眸を歪めて、掴みどころなく笑う金髪男を睨みつけた。
そしてディアッカの片手はなおも、イザークの片腕を掴んで有無を言わさず隊長室へと引っ張り込んだ。

***

エアロックの排気音がして、開けた視界の先の隊長室は荒れていた。
というのも、居住区の各居室は重力を地球と同じレベルまでかけてあるが、不意に何らかの要因で重力制御が効かなくなった場合に備えて、備品は所定の位置に格納されて固定されているのが通常であるのに、ベッドリネンやステンレスカップといった生活用品が固定されず、各々ベッドや机に散乱していたからである。

「おいおい。これじゃ事故るぜ」

額にステンレスカップを当てる仕草でおどけながら、ディアッカは机の上のステンレスカップをストラップで作り付けの棚に固定した。

「まーた顔に傷作ったりしたら、目も当てられない」

「やかましい!」

「体調、わりーんじゃねーの?」

ディアッカはイザークの額に自身の額を押し当てた。

――冷たい。

イザークは思い、目を伏せた。

イザークは押し黙り、ディアッカの額の冷たさを味わった。

「知恵熱とか? ってかお前、怒鳴りっぱなしだからなァ」

目尻の柔らかく下がった菫色の瞳がイザークのガラス玉を真っ直ぐ、至近距離で捉える。
イザークは目を逸らさず、心持ち小さな声で告げる。

「貴様らが真剣に演習に取り組まんからだ」

――お前のせいだ、とイザークは小さく文句を言った。

ディアッカは、白い士官服を纏った上官――兼恋人の手を取った。

「拗ねた? ゴメンね」

「馬鹿野郎! 拗ねたとか何とかキショク悪いこと言ってんじゃない。真剣に取り組めと、俺は言ってる。不愉快だ」

イザークはディアッカを一喝した。

「分かってるよ、分かってる」

怒髪天をつき、血管が切れそうに張り詰めたイザークの肩をディアッカはニコニコと叩いた。

「早く戻るぞ」

ディアッカの手を振り払うと、イザークは部屋の端末からブリッジに繋いだ。

「艦長、ブリッジを離れてすまない。状況は?」

「心配ない。”嵐“は収まったか?」

イザークはキョトンとした顔でおうむ返しをした。

「嵐――?」

すかさず、ディアッカが机に手をついて屈んだイザークを後ろ抱きにして割り込んだ。

「ま、戦果上々ってとこ」

「それなら二人とも戻ってこい」

「な、ディアッカ、お前何を――」

「りょーかい」

回線を切ると、ディアッカはイザークの唇に触れるだけのキスをした。

「戻るか!」

「ハァ!? 貴様何して――」

サボりもほどほどにしないとね、とディアッカが言うと、イザークに横腹を小突かれた。

end.

送信中です